サムヤンレンズ第一号、長い間憧れていたティルト、シフトレンズだ
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先日侃侃諤諤本編で「次に欲しいレンズ」として挙げた中から一番乗りを果たしたのがこちら、サムヤンの「TILT/SHIFT LENS 24mm F3.5 ED AS UMC」だ。入手にまつわるちょっとした出来事があったのだが、それはまた後日話そう。
サムヤンは韓国の光学メーカーで、日本で名前が知られるようになったのは最近のことだと思う。カメラ用レンズは見たところ単焦点のみで、低価格路線で攻めているようだ。評判を聞くところによると、「安かろう悪かろう」ではなく「安いが侮れない」実力があるらしい。そんな中で私が注目したのがティルト、シフトあおりが可能なこのレンズ。大手メーカーでは現在、ニコンとキヤノン、そしてライカのみが製造、販売しているティルト、シフトレンズだが、共通点は非常に高価であること(特にライカのは)。逆立ちしようが何しようが絶対無理、というほどの価格帯ではないものの、使用頻度を考えたらもっと他に買いたいレンズがある。「仕事で使う」「作品作りに欠かせない」「これ一本で撮りたいものが全部撮れる」「お金が余って仕方がない」「写真のためなら生活苦なんて何でもない」という場合は買ったらいいと思うけど、残念ながら私はいずれにも当てはまらない。代替策としてマウントアダプターにティルト、シフト機構を組み込んだ物も使ってみたが、使ったレンズの古さもあってか画質的にちょっと厳しいものだった。自然とニコンの高額レンズに目が向いたが、それでもやっぱり欲しいが買えなかった。そんな中知ったのがサムヤンのこのレンズ。安くはないが、ニコンやキヤノンの同クラスのレンズを思えばかなりのお買い得。私の気持ちをもう一押ししたのが、用意されたマウントの種類。レンズメーカーなので様々なマウントで使えるようラインナップが展開されているのだが、その中にソニーAマウント用があった。何故ティルト、シフトレンズが欲しいかというと模型の撮影に使いたいからで、そして模型の撮影をするのに一番よく使うカメラがAマウントのα77だ。これはもう、買うしかない、そう感じた。
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実際にシフト、ティルトさせてみたところ
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「シフト」はレンズを左右または上下に平行に移動させる動作(*1)。カメラの向きを傾けることなく上下左右方向にずれた位置にある被写体を中央に写すことができる。建築写真で「上すぼまり」が起きるのを防ぐために使ったりする。「ティルト」はレンズを左右又は上下方向に曲げる動作(*2)。通常はカメラと並行にあるピント面を傾けることができる。商品写真で、絞り込んでも被写界深度が足りないときに使われたりする。
このレンズには接点端子の類はなく、カメラとの通信は行われない。よって本体の設定項目「レンズなしレリーズ」を「あり」にする必要がある(実際にはレンズ付いてるんだけどね)。もちろんExif情報にレンズ距離やF値は記録されない。絞りも完全手動で、「開放でピント合わせ、撮影時には任意のF値まで絞りリングを回転させる」といった操作が必要になる。この辺はニコンやキヤノンのお高いレンズには敵わない。そのニコンやキヤノンでも、さすがにティルト、シフトレンズのAF化は不可能だったようで、マニュアルフォーカスである点は同じだ。
ところで絞りリングに「α」のマークが入っているのが気になるが、これ商標とかは大丈夫なのかな……。ごく一般的なギリシャ文字のαです、って言えそうだけど。
*1 本来のシフトは左右への移動で、上はライズ、下はフォールというのが正式らしい。一眼レフ用のレンズでまとめて「シフト」と呼ぶようになったらしい。
*2 本来のティルトは上下方向への回転で、左右はスイングというのが正式らしい。一眼レフ用のレンズでまとめて「ティルト」と呼ぶようになったらしい。
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最短撮影距離はカタログスペックで0.2m
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このレンズはシフトで12mm、ティルトで8.5°動かせるようだ。これはキヤノンの同スペックレンズと同等で、ニコンの同スペックレンズはティルト量は同じだがシフト量が11.5mmとやや少ない。この0.5mmがどの程度影響するのか、私はそこまで使い込んでないのでよく分からない。シフト量ティルト量は大いに越したことはなさそうだが、そうするとレンズのイメージサークルをより大きくなるよう設計しなくてはいけなくなるので、サイズにも重量にもそして値段にも響いて来そうである。レンズの性質上近接能力も高めに作られているようだ。最短撮影距離はサムヤン0.2m、ニコン0.21m、キヤノン0.21m。最大撮影倍率はニコンが0.36倍、キヤノンで0.34倍だ。サムヤンは公式サイトやレンズの箱、取り扱い説明書に最大撮影倍率の記載が見当たらなかったため実際に撮影してみた。
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最短撮影距離で撮影(カメラはα99II)
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厳密にやるのは面倒だったので目分量のいい加減な精度での実証になるが、カメラに平行に定規を置いて横方向何センチの範囲が写るか撮影。フォーカスリングを目一杯右に回転させた状態で19cm少しのところにピントが合うことが判明したので、メーカー公称の最短撮影距離よりも短いその状態で撮影。結果は、横がおおよそ78mmで、撮影倍率は0.46以上の高い数値に。公称スペックの20cmの距離で撮影すると約93mmで、こちらは0.39倍弱。ニコンやキヤノンの同スペックレンズに近くなる。ニコン、キヤノンも公称より近い距離で撮影できて、もっと大きく写せたりしそう? ちなみに、ピントリングは「0.2」の指標よりも心持ち右へ回転するが、「0.2」ちょうどぐらいのところにしてもピントは20cmよりも近いところに合った。サムヤンのこのレンズの指標がずれているのか、それともカメラのレンズは「こんなもん」なのか、こういう検証は初めてなので良く分からない。
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上記写真の撮影風景
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撮影距離19cmちょっとの時におけるワーキングディスタンスは35mm強。レンズ保護用にフィルターを付けているのだが、その枠からは35mm弱といったところ。写真を見ての通りかなり短く、ライティングを気にする撮影では苦労しそうだ。
なお、カメラ界では常識だと思っていたら、以前カメラの話をしたときに義兄が知らなかったので念のために記しておく。カメラのイメージセンサーがどの位置にあるかは、カメラのどこか(上面が多そう)に「Φ」みたいな印で示されている。あと、これもカメラ界では常識のはずだが、レンズの「最短撮影距離」とは被写体とイメージセンサーもしくはフィルム(撮像面)との距離である。レンズ先端から被写体の距離は「ワーキングディスタンス」と言って全く別物だ。
拡大写真なしでは分かり辛いかもしれないけど、このα77にもきちんと「Φ」の刻印がある。上面液晶の右(ストラップ吊の左横)に見えるのがそれだ。「Φ」の縦棒が撮像面を示しているため、カメラを正面を向けて持った時には「Φ」は横向きになる。このマークが何の役に立つのかというと、例えば今回みたいなケースだ(笑) メーカー側は学術的な何かの用途で使われることを想定してるんじゃないかな? 私も活用したのは今回が初。これがないと困るという人は……カメラ所有者の1000人に一人もいないかも?
余談シリーズ。義兄が知らないということはキヤノンのカメラには付いてないのか?と思って梅田の家電量販店に見に行った(冷静に考えたらネットで確認できる)。全機種はチェックしてないが、レンズ交換式カメラでこれがないという機種は発見できなかった(他メーカーのものも含め)。手持ちのカメラでは、レンズ交換式デジタルカメラは全てあり。一番安いオリンパスのE-PM2にも、“家電メーカー”のパナソニックGX7 MarkIIにもきちんとあった。一方で、レンズ交換式でないカメラにはなく、フィルム一眼レフでもマークのない機種の方が多く、これは驚きだった。ミノルタのAF機はα−9のみあり。MF機は、フラグシップのX-1やXE、古いSRT101にはあったが、XDやXG-S、X-700では省かれていた。他メーカーではキヤノン機のみで確認。NikonF、PENTAX645、ライカM3、M6TTLといったあたりになかったのは「えー!? なんでー!?」と声を上げそうになった。安物なら「仕方ないなあ」の一言で済むけど、高級機には入れておいて欲しかったね。滅多に使わないとはいえ、その滅多に使わない用途も想定してあるのがプロフェッショナルなカメラなんじゃないかな。
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前回の写真
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そんなわけで、前回の写真はこのレンズを使って撮影した。この写真はティルトを使い、カメラの正面と面が合うようにピント面を傾けている。ソニーのロゴやカスタムボタン(本体も奥の縦位置グリップも)、そしてレンズに半分隠れている「α」のロゴにしっかりピントが来ているのをご確認いただきたい。絞りはF8と少しだけ絞っているのだが、接写しているために被写界深度が浅く、その面から垂直方向に離れると急激にボケ始めている。電源スイッチのON、OFFの文字が滲んでいて、レンズの「GM OSS」あたりはかなりボケている。
前回3枚目の写真も、素直に背面を真っ直ぐ撮ればいいのに「縦位置グリップを強調したかった」という口実の下、ティルト活かした構図で撮影している(笑) 2枚目も実はシフトを使っているのだけれど、あんまり効果がなかったので説明は省略。というか、若干やらかしてしまっている。不自然なところがあるので、気付かれてしまったら仕方がないけど、気付いてない方は例え暇があっても探さないでください。
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恒例?の編成写真ティルト撮影
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さて、このレンズを買った一番の目的を……新作が発表出来ればそれがベストだったのだが、まだちょっと完成しそうにないので旧作の中からお気に入りの103系をチョイス。ティルトを使ってピント面を傾け、編成の先頭から最後尾までピントが合うようにしている(拡大画像でご確認ください……しかし改めてみると、ティルト調整が甘くて編成後半ちょっと怪しいな)。遠くにある編成後部にピントは合っているものの、撮影距離としてのピント位置は近いため被写界深度は深くない。絞りはF8まで絞っているが、ピント面から離れた後の鉄橋や建物、エッフェル塔はしっかりボケている。模型好きだがカメラにはあまり詳しくない後輩にこの写真を見せたところ、「被写界深度がかなり深そうなのに周囲がボケボケで、強い違和感を覚える」という的確な言葉を頂戴した。
ティルト、シフト可能なマウントアダプターを使って、マイクロフォーサーズボディにOMマウントレンズを付けて撮っていた時と比べると、画質が向上している気がする。特にそう感じるのが前面で、ピント面とは垂直に近い関係にあるためか、以前は収差のような像の乱れがあった。編成後部までピントは合っていても、肝心な前面の画質が悪いのでは本末転倒。新しく買ったこのレンズはその点でも大満足である。
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こちらはシフト撮影
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こちらはシフトを使った作例。実は以前に「鉄道模型のカタログ風」としてこんな感じの撮影にも挑戦している。改めて大手メーカーのカタログ写真を見ていたのだが、トミックスはシフトを使って撮影しているような気がする。この写真は、カメラの中心から右手方向にずらして車両を配置し、レンズを右方向へシフトして撮影。普通に撮ったのとどう違うのか。この下にある2点の写真を参考にしてもらいたいのだが、
(1)真横から撮ると、車両の正面が写らない
(2)正面を写すために斜めから撮ると、車両後部に向かって遠近感が生じる
(車両後部がボケはティルトで修正可能)
カトーのカタログは斜め前から撮影していて(ピントの合い方を見るとティルトは使ってるかも)、若干後方に向かってパースが付いているが特に違和感はない。考え方によってはむしろトミックスの方が不自然かもしれず、なぜそのような撮影をしているのかは不明。唯一連接車の小田急ロマンスカーシリーズに関してだけは絶大な威力を発揮しているが。私が今後もこういう写真を侃侃諤諤に載せるかは未定。1両1両紹介したいもの、例えば戦前型旧国あたりでは使うかもしれない。
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真横から撮影すると、車両の正面が写らない
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斜めから撮ると、遠近感が生じる
(画像をクリックすると大きな画像が表示されます)
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そんなわけで、ついに念願のティルト、シフトレンズを手に入れた。“純正品”はその値段故にずっと我慢してきたわけだが、いつか悪魔の囁きに耳を傾け買ってしまいそうな自分がいて怖かった。その心配はもうなくなった。このサムヤンのレンズも決して安いものではないが、あちらに比べると約1/3。ニコンやキヤノンが複数の焦点距離をラインナップしている一方でサムヤンは24mmのみ。選択の余地はなかったが、Aマウント版が用意されていることも併せて私の使い方にはジャストフィット。にしても、「もう一通り揃ってるから、α/Aマウントレンズはこれ以上増えないだろうな」と思ってからこれで何本目になるだろう(笑)
ところで、もうお気付きの方も多いと思うけど、侃侃諤諤本編の(1)〜(3)のリンク先は全て同じ、このページです。(1)〜(3)の全てが正しいと言えるし、そもそも「正しいものを選べ」とも書いてないしね(笑) それからもう一つ、「なぜ大きな画像の用意があったのでしょう」とは書いたけれども、「そもそもなぜ画像で侃侃諤諤にしたのか」というあたりから前回の画像で〜は不自然だった。答えはもちろん「新しいレンズを買ったから」で、このレンズを買ってなければきっと文字だけで済ませていました(笑)
(2018.07.30)
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