BD版映画『バンパイアハンターD』
25年の時を経て、映画『バンパイアハンターD』がBD化された!

 2000年頃に公開された『バンパイアハンターD』は、小説『吸血鬼ハンターD』シリーズを原作とするアニメーション映画だ。現在でも橘雪翼が最も好きな映画でありアニメーションである。当時はブルーレイディスクが存在しなかったこともあり、公開終了後はDVDのみが発売された。今のフルHDの各種映像を見ると画質で見劣りするので、リマスターの上でBD版が出ないかと願っていた。尤も映画公開から時間が経っている上に、原作シリーズは続いていても映画は単発、現実的には無理だろうなあと諦めていた。それがひっくり返ったのが今年の3月のこと。
 私はもちろん予約の上で購入。店舗特典で「楽天ブックス」を選択した(写真手前のアクリルスタンドがそれ)。その後、保存版としてもう1セット追加で買った。

封入特典の映画フィルム

 映画のディスクではたまにある特典で、使われたフィルムをカットしたものが付いている。今はデジタル全盛だろうからこういうのもなくなっているのだろうか。あるいはわざわざフィルムに焼き付けてそれっぽいのを作っている可能性も? 一番右はDVDの特典で、この写真では分かりにくいが敵サイドの1人、カロリーヌ。今回買ったBD版では、両方ともヒロインのシャーロットが出てきた。普段から「引きが悪い」と嘆いている私だが、シャーロット2枚は当たりの部類と言っていいだろう。勿論、一番出て欲しかったのはDだが。

 当サイトでは、DVD版を購入した後に感想を書いた記憶がある……が如何せん大昔のこと。「侃侃諤諤」になる前の旧「橘発の夜行鈍行」時代だったような気がするので、現在はログが残ってない。ということもあり、今回改めて視聴してみたこともあり、あれこれ感じたことをまとめてみた。かなりねちっこいです(笑)
 あ。あと、私は英語音声で視聴しております。


[ オープニング ]
 令嬢が鏡には映らない何者かに攫われるという、吸血鬼を題材としたホラー作品らしい始まり。ここ実は早速のツッコミどころ(笑) 攫われたとシャーロットは、攫った吸血鬼マイエルリンクと相思相愛の恋仲である(ということが割と早めに判明する)。突然の来訪者にシャーロットが驚くのは無理もないことだが、マイエルリンクが一言「驚かせてすまないシャーロット、私だよ」とでも言えばシャーロットは喜んで抱き着くぐらいのことをしていただろうに。ま、そんな風にしてしまうと序盤の面白みが減るわけだが。

[ ハンターへの依頼 ]
 娘が攫われたエルバーン家はハンターを雇い、その奪還を命じる。一組目はマーカス兄弟、そしてもう一人が本作主人公のDだ。吸血鬼ハンターとして有名な一方、吸血鬼と人の混血「ダンピール」であることが恐れられる要因の一つであった。とまあ、そんな背景が伺える一幕。そしてこの時の依頼料「1000万ダラス」は現代日本における如何ほどになるのだろう? この後も何度かお金の話は出てくるので、後ほどその価値を推し量りたい。ところでなのだが、シャーロットの兄アランはDと少し離れたところで事情を話すのだが、Dの傍にあった台の上に1000万ダラスの硬貨が入った袋を投げて寄越す。実にいいコントロールである。

[ ゾンビ化した村 ]
 追っ手から逃げる時間を稼ぐため、マイエルリンクは途中立ち寄った村の住民を吸血して僕(しもべ)と化していた。マーカス兄弟はその元住民たちの群れを一蹴。戦闘が終わったところに馬でやって来たDに、長兄ボルゴフが矢を射かける。満月を背にその矢を片手で受け止めるDの姿は本作のハイライトシーンの1つ。
 簡単な挨拶だけを交わして走り去るDに、次兄ノルトと三男カイルは「先を越される」と焦るが、ボルゴフは「なぁに、面倒な仕事はアイツにやらせておけ。俺たちは最後に美味しいところだけかっさらえばいいのさ」と余裕を見せる。その時に「リスとフクロウ」で例えるのだが……長ったらしい上に分かりにくい(笑)

[ サンドマンタ ]
 マイエルリンクを追うDの障害……とはならなかった巨大生物。原作に出てきたかどうかは忘れたが、原作の設定から言うと吸血鬼たちがお遊びで作った人工生命体なのだろう。この辺りでDの“左手”が登場する。私が読んだ範囲内では、この“左手”がどういう経緯でDの左手に寄生したのか語られていない。昨今の作品であればそろそろ過去編とかのエピソードになってるところだろうけど、『D』に関して言えばずっと謎のままのほうがらしい気がしている。

[ 貴族の休憩所 ]
 太陽の光に弱い吸血鬼(貴族)が昼間避難するための施設。超常の技術によって外敵を排除するようになっているが、Dもマーカス兄弟の紅一点レイラも物ともせずマイエルリンクの命を狙う。ここでレイラはマイエルリンクの反撃により負傷する。弾が胸の辺りを貫通したようで、Dの手当(応急処置)程度で簡単には戦線復帰できそうにない。が、この後も元気に戦う姿を披露する。まあこの世界で吸血鬼ハンターやってるぐらいだから体が頑丈なのかな。
 逃げるマイエルリンクの馬車にDが追い付き、交戦開始。実力はDの方が上。必殺の一撃がマイエルリンクを斬らんとしたその時、馬車中からシャーロットの悲鳴が飛ぶ。その声を聞いたDは、シャーロットが(吸血鬼に攫われたにも拘わらず)正気を保っていることに驚いてチャンスを逃してしまう。さてこのシーン……馬車の上で戦っていた2人の様子をどうやってシャーロットは見ていたのだろう。窓から顔を出していた、という様子もない(普通に危ないからね)。というツッコミを入れるのは野暮なんだろうなあ(笑)

[ バルバロイの里 ]
 マイエルリンクは、異形の凄腕たちが集うバルバロイの里に逃げ込む。マーカス兄弟は「行きたくねぇなあ」という雰囲気で、Dは相変わらずの無表情な一方、左手は「他の手を探そう」と提案するもDは却下。さてマーカス兄弟、さっきは「面倒なことはDにやらせよう」という方針だったのに、ここではかなり積極的に仕掛けている。ちょっと一貫性に欠けるのでは?(笑) まあ失敗すれば「行き当たりばったり」だけど、上手く行けば「臨機応変」。これぐらい図太くないとやってけないんだろう。
 バルバロイの里の長老に敬意を払うD。さて、どっちが年上なんだろう。長老も歳食ってそうなのだが、Dも見た目こそ若いけどかなりの年月生きてるはずだからね。ここで二度目のお金の話が出てくる。何者かがマイエルリンクたちのために支払った護衛料は「1億ダラス」。普通に「1ダラス=1円」とすれば、ハンターへの依頼料が1000〜2000万円で、この場面での護衛料が1億円ということになる。バルバロイの長が最高の凄腕3人を仕事に当たらせているとを考えると、大体この辺りなのかも。
 その後、バルバロイの3人とDやマーカス兄弟が戦う展開に。まず幽体?みたいな感じでマーカス兄弟の四男(多分末弟)グローブが里のど真ん中に乱入。混乱の最中、3人が長老の指示を受けて馬車を出発させる。それを追うグローブは光の矢のようなものを発するが、全てベンゲが吸い込む。この時のベンゲの表情……断末魔にしか見えないのだが、その次のシーンを見るとダメージがなかったよう。あの顔は何だったんだろう? ふざけてただけ? ベンゲはその後、一時的とはいえDの無力化に成功する。里の外れでノルトを倒したことと合わせ、かなりの活躍だ。場面変わって、影に沈んだベンゲの次なる標的はカイル。ノルトの最期の言葉を思い出したボルゴフはカイルに「一歩も動くな」と指示を出す。これ、弟を囮として使った、という認識でいいのかな? 非情にも見えるが、そうでもなければ生き残れない世界なのだろう。それに、おびき寄せられたベンゲを確実に仕留める自信もあったのだろう。

[ 途中の町 ]
 マーカス兄弟は車の燃料補給に、Dは代わりの馬(サイボーグ)の調達に立ち寄る。なるほどこうしてみると、両者バルバロイに足をやられたことになるのか。
 ここで出てくる保安官、なかなかの仕事熱心。レイラに銃を突きつけられても一切動じない豪胆だが、レイラにダンピール(D)が来ていることを聞かされて血相を変える。この辺の話は、冒頭と合わせて如何にダンピールが嫌われているかのエピソードでもある。
 Dはサイボーグ馬を作っている老人の元へ訪れる。老人は一目ちらっとDを見て「30万ダラスだ、高いと思うなら他所へ行け」と言い、Dは一言も発さずお金を置き、馬の一頭に鞍を付け始める。この後、老人にとってDは、子どもの頃の命の恩人であることが判明する(「あの時から見た目が変わってない」という発言も地味に重要)。だったら馬の値段安くしとけよ――と思ったのだが、実は30万ダラスが破格である可能性に気付いた。「高いと思うなら」は一種の照れ隠し? さてここで、三度お金の話だ。さっきの「1ダラス=1円」が正解だとすれば、ここでの提示額は30万円。馬一頭の値段としては多分かなり安い。ただ、ただの馬ではなくサイボーグ馬だから現代日本の価値観が当てはまるとも思えない。普通の馬より高くなりそうな一方で、この世界ではサイボーグ馬なんてありふれたものかも? ま、どちらにせよ、30万ダラスは老人の感謝価格だった可能性が高そうだ。
 さらにお金の話がもう一つ。老人の幼い頃の集団誘拐事件。犯人は吸血鬼で、街のみんなでお金を出し合ってハンターを雇った。それがD。さて、この時の依頼料はいくら? 1000万とか2000万ダラス集められるような大きな街には見えない。依頼内容を聞いたDが格安で請け負った説を提唱しておく。

[ 水辺にて ]
 ベンゲの戻りが遅いことにイライラするカロリーヌ。一方で馬の世話をしていたマシラはマイペース。それぞれの性格は出ているが、二人ともしっかりお仕事しようという意識がありそう。原作と違って好感度二重丸だ。
 シャーロットを奪還する最大のチャンスだったが、本人の拒絶とカロリーヌの奇襲、マシラの忠臣っぽい働きにより失敗に終わる。カロリーヌとD及びレイラの戦いになるが、ここでDは陽光症を発症する(混血なので陽の光を浴びても即消滅するようなことはないが、それでも積み重なると機能不全に陥る)。全力が出せなくとも見事カロリーヌを打ち倒すD……に見えたが、ノーダメージに近いカロリーヌ。レイラは脳天にナイフを打ち込むがやはり効果なし。カロリーヌ唯一の不運は天候――雷が直撃したことに尽きる。これがなければレイラはもちろんDすらアウトだった気がする。でもまあ、運も実力のうち、か。
 この後のレイラとDの会話が物語の最後へ繋がる。

[ 橋の上での戦い ]
 橋の上で待ち伏せに遭ったマイエルリンクたち。ここはマイエルリンクとシャーロットの絆の強さを物語るエピソード。そして数少ないマシラの活躍シーンでもある。派手さはないが堅実に仕事をこなすタイプだ。ちなみにマシラはこの後、あっさりとDにやられてしまう。戦うシーンは一切なく、その結末だけ。合掌。あ、でも、戦う場面がないからあっさりに見えるだけで、実際はそれなりに激闘だったのかも?
 話は前後するが、待ち伏せ中のボルゴフとカイルの会話。ボルゴフが「おそらく奴らの行先はレイテ城だ」と言うと、カイルが「あんなとこ行けるかよ、ヤバすぎらあ!」と悲鳴を上げる。この「ヤバすぎらあ!」の部分の英語ははっきり聞き取れるのだが、直訳すると「自殺行為だ!」になる。「自殺行為だ!」だとカイルにしては知性高すぎなので、「ヤバすぎらあ!」にした訳者さんいい仕事してます。

[ レイテ城 ]
 いよいよ物語は最終着点へ。黒幕、というわけでもないが、ある種ラストボスとも言える吸血鬼カーミラの居城だ。幻惑系の術を使い、マイエルリンクを真っ二つにし(但し後で復活する)、ボルゴフを引き入れる。ボルゴフはレイラを人質にDを倒そうとするが、グローブの幽体が飛んできて、自爆により消滅する。おそらくレイラには届いていなかっただろうグローブの儚い恋の一幕。ところでここ、グローブが来なかった場合にどうなっていたか。まあDのことだし、レイラの命は二の次でボルゴフを斬っていたような気がする。その直前のカーミラの作り出した幻影の中で、自分の母親を無感情に斬り捨てていたしね。
 カーミラの牙がシャーロットの喉元に突き刺さる。封じられていたカーミラが力を取り戻し、Dに襲い掛かる。ここでいろいろ問答があるが、Dが主人公パワー(笑)でカーミラを返り討ちに。カーミラは「血が足りない」とばかりに、倒れたシャーロットからさらに血を吸おうと這い寄るが、復帰したマイエルリンクに両断されて滅びる。安易に「主人公がラスボスを倒しました」という形にせず、Dが致命傷を、止めをマイエルリンクと役割分担させたのが味わい深い。

[ 最終決着 ]
 吸血されたシャーロットの命は助からず、悲嘆に暮れるマイエルリンク。吸血鬼を討つ最大のチャンスにレイラは逡巡し、構えていた銃を下ろす。しかしDは、まるで空気読めないかのように「娘を家族の元へ帰す」と宣言。ちょっと解釈が分かれそうだが、ここでのDの行動の答えは、レイテ城に突入する前のグローブとレイラの会話の中にあるのではないだろうか。兄弟のうちの2人がやられてしまったことで撤退を叫ぶグローブだが、レイラは「吸血鬼が私たちを恐れるのは、狙った獲物を必ず仕留めてきたから」と取り合わない。Dがマイエルリンクをそのまま行かせると、依頼失敗に加えて吸血鬼サイドからすれば「なんだあいつ甘ちゃんだな」ということになりかねない。最低でもマイエルリンクには敗北の二文字を刻み付けておかないとダメと言うことだ。レイラがシャーロットの遺体から指輪を抜き取り、叩き付けてDへ寄越したのはレイラなりの交渉? 普通なら死闘の最中にそんなの見てる余裕はなさそうだが、何せDである。マイエルリンクと一見して互角でも、全然本気じゃなかったのだろう。最後は敢えて命までは獲らない余裕っぷり。果たしてマイエルリンクは、レイラには感謝しただろうがDにどのような感情を抱いただろうか。それでもシャーロットの遺体を抱き、誰にも邪魔されない宇宙への旅路に就けることをせめてもの救いと感じたか。

[ そしてエンディングへ ]
 マイエルリンクとシャーロットを乗せた宇宙ロケット(デザインはお城風)は、不調でエンジンが止まりそうになる。しかしレイラの激励を受けて再点火し、高く空へと飛んで行く。もちろん機械が人の声で頑張るなんてありえないし、距離的にもレイラの声が届くはずもないが……ここは「レイラの後押しで二人は旅立った」ことにした方が美しい。
 時は流れてどこかの村。粛々と葬儀が行われているところを遠くからDが見守る。それに気付いて駆け寄った少女は……レイラの孫。多くは語られないが、中盤で陽光症に倒れたDとレイラの会話から想像を膨らませるべきところだろう。シャーロットの悲しい結末に対しこちらはハッピーエンドと言える。好対照な2つの物語の幕引き。ちなみにここでのDの姿は全く変わってない。ダンピールなので老化しないわけだが、サイボーグ馬の老人の言葉はその説明を兼ねていたのだろう。


―――――
 さてさて余談。本作ヒロインは「シャーロット」だが、「シャーロット」と言えば『イケナイ教』(*1)のヒロインも思い出す。『D』のシャーロットは“イケナイこと”の大先輩だ(笑)(*2) さらに。『イケナイ教』の「シャーロット」のフルネームは「シャーロット=エバンズ」。『D』のシャーロットは「シャーロット=エルバーン」……何か似てない? こじつけが過ぎるかもしれないが、『イケナイ教』でシャーロットと恋仲になる主人公は「アレン」で、こちらのシャーロットは兄の名前が「アラン」。もしかするともしかして、作者は……?

*1 ライトノベル及びそのコミカライズ『婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む〜美味しいものを食べさせておしゃれをさせて、世界一幸せな少女にプロデュース!〜』
*2 吸血鬼と恋仲になるという、ガチめの「イケナイこと」。

(2025.11.22)
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